旅と日常のあいだ

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グローブトロッター、期間限定アウトレットと特注モデルと

先日、三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島へ行った。目的は期間限定で出店しているヴァルカナイズロンドン。英国メイドの素敵スーツケース「グローブトロッター」を見るためである。グローブトロッターは普段ほとんどセールにならないが、アウトレットでは傷あり商品などを割引価格で売っているのであった……ゴクリ。

 

グローブトロッター。赤の21インチを持っている。初めて値段を知ったときはあまりの高額さに驚き、「スーツケースにそんなに出すなんてどうかしてる」と思ったのに、その見た目、歴史、美しさへの憧れを抑えられなくなり数年前に思い切って購入したのだった。

国内や海外旅行に何度も使っているが、サイズも使い勝手も過不足なし。スーツケースなんて何個もいらないのに、ひとつ手に入れるともうひとつほしくなるのがグローブトロッター。サイズ違いがあればそれはそれで便利だよね、旅行に行かなくても普段から洋服とか入れておけばいいよね、見た目が素敵だから部屋に置くだけで暮らしの質が上がるよね!(いま部屋に置いてあるけど暮らしの質など変わっていないってことを忘れてる)

 

アウトレット商品は定価より1~3割ほど安かった。もう一つ持つなら26インチがいいのだが、いいなと思っていたブラウンは欠品で店舗にはさらに大きな30インチしかない。うーむ、基本的に荷物少なめの私には30インチは大きすぎる。しかし大は小を兼ねるからいいか? この先長期旅行に出かけるかもしれない、いやむしろスーツケースを活かすために長期旅行を計画しても構わない(本末転倒)。割引に目がくらみ、大きすぎるスーツケースを買う正当な理由を必死で探す私である。

しかしこれ、割引したといっても17万円。気軽に買えるものではない。ケーキ屋さんで1100円の高級ケーキにビビるのとはケタが違う(ハーブスのメロンメロンケーキ記事を参照)。

 

グローブトロッターはほしい。しかしすぐに必要なわけじゃない。そもそもサイズが大きい。でも安く買えるチャンスを逃すのも惜しい。あぁどうすれば! このとき、私の心を見透かすように店員さんが放った一言。

「21インチをお持ちなら、次はこの30インチがおすすめです。30インチの中にお手持ちの21インチを入れて旅行に行けばいいんです。で、帰りに荷物が増えたら、スーツケースを2つにできますよ!」

スーツケースにスーツケースを入れる? うわぁなるほど、そりゃ名案やで!って思うと同時に、そんなアホな使い方があるか!とも思った。いや、アホな使い方ってことはないんだけど、まるでマトリョーシカ。スーツケースを開けるとスーツケース、その蓋を開けるとまたスーツケース、その蓋を開けると……。こんな売り文句が出てくるとは予想外であった。

ここでいったん冷静になり、安いからって本質を見失いかけていた自分を反省。ベストな商品に適切な対価を払うのはいいけれど、「ちょっと違うな」って思いながら十何万を払うのはないわ。問題は値段ではない。高いか安いかではなく、それが本当にほしいものかどうか、だ。

 

そう自分に言い聞かせ、何ひとつ買わずにアウトレットを去って名古屋に戻り、まっすぐ向かったのはヴァルカナイズロンドン名古屋店。ここにはグローブトロッターの新品を定価販売する正規店である。アウトレットにはなかったブラウンの26インチを見せてもらったら、おお、色もサイズもしっくりくる。やはりこれだよ私がほしいのは! さっき早まらなくてよかった。もう迷わない、ほかのものに目移りしたりしない。たとえ値段が高くとも、これがほしいという揺るぎない気持ちになったものだけをしっかり見極めて買うんだ!

と思った矢先、ふと別の場所に飾ってあるスーツケースが気になった。スタッフに「あれは?」と尋ねると、「イギリス王室の王女ご生誕記念モデルです」と。なんと! その存在は知っていたが実物を見るのは初めて。限定モデルとあって通常とは違う凝ったデザインなのだが、これがまた配色も内装もすごく好み。ネットで見て憧れており、実物を前にしたら頭に血がのぼるほど素敵だった。どう考えてもこれしかないってくらい好きだった。しかもスタッフいわくこれが国内最後のひとつ、あとは残らず完売とのこと。

やばい、運命のスーツケースに出会ってしまったようだ。もはや、さっきまで見ていたブラウンの26インチが霞んで見えるレベル。これこそ私が求めていたもの、そして今しか買えないもの。問題は値段じゃない、それが本当にほしいかどうか、だ。確かこの限定モデルはかなりの高価格であったと記憶しているが……。おそるおそる聞いたところ「31万円です」との答え。さんじゅういちまんえん。 高い! 出せるわけない!

 

というわけで、数秒前まで抱いていた「本当にほしいものならば高くても買う」という決意は簡単に崩れ去った。「本当にほしくても買えないものもある」という当たり前のことを再確認。それが正しく31万円の価値があるものだとしても、単純に高いよね、スーツケースにかける金額としてはね。こうなると初めに見たアウトレットの17万円が破格の安さに思えてくるけどそれは気のせい。ともかく、いま持ってる赤の21インチを長く大事に使おうという結論に至った。さんざん見ておいて結局そこ。

 

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