『烏有此譚(うゆうしたん)』円城塔
今年も残すところわずかなこのタイミングで出合ってしまった問題作、私にとっての未知なる衝撃、その衝撃波による興奮。表紙に記された文章に「目眩がするような観念の戯れ、そして世界観/不条理文学のさらに先を行く、純文学」とあって、不条理文学とは何か、純文学とは何かの定義を知らない私でも、「確かにこれは不条理で、確かにこれは純文学!」と断言してしまいたくなるのだった、圧倒的なわけのわからなさと、その心地よさに。
意味とか説明とか時間軸とか、物語に必要そうなそういうものがちゃんと提示されてないのに、「なんかよくわからないけど別にまあいいか」ってなっちゃう世界。
この小説の何が特別かって、本文が全ページ二段組みになっていて、下半分が注釈にあてられている点だ。注釈の量と、飛躍距離(つまり脱線具合)たるや半端なものではない。上段に記された物語と、下段の自由奔放すぎる注が、ボリュームもスピードも違いすぎる。読み進めていくとページの進行に加速度的に開きが出る(注釈ばかりが先のページに進んでしまう)ので、しおりが二枚必要なほどだ。しかもその注釈には、物語の書き手である「筆者」と、注釈を入れている存在である「註者」とが混在しており、読み手である私はそれらの間で(っていうか最終的には同一人物なんだけど)翻弄されるばかり。それが、私にはとても面白かった。ストーリーじゃないよね、もう。構成の妙だね。といって、ストーリー自体がつまらなかったわけではない。
しかしなにしろ不可思議で問題提起がプンプンで、読むのにパワーが必要だった、そんな分厚い本でもないのに。疲れた。あと、久しぶりに凄いのを見つけちゃった感じだが、人に薦める気にはまったくならないねええええ。もし読んだ方があったらぜひ感想を聞いてみたいとは思う。