酒見賢一の『分解』。
酒見さんは、デビュー作『後宮小説』から変態的に天才的なセンスが炸裂していて、読むと必ず「小説ってすごい・・・」とぼーっとなってしまう。今回もまたすごかった。本作は短編集なのだが、表題作の「分解」に名フレーズあり。いわく、「小説の機能は読む者の人心にはたらきかけ、ある種の意識異常を引き起こすことにある。(中略)小説は人を遠くに連れていくためにあるものだ。」と。まったくその通りだと思う。そう断言してくれる作家がいて、その作品にどっぷり浸かれるなんて、読者たる私はなんて幸せものなんだ。しかし、正直に言おう、この「分解」、実は最後まで読み切れなかった! あらゆるものを物理的・概念的に分解しまくるという話なのだが、細密で淡々とした描写に気持ちが悪くなってしまったのだった。どうしたらいいの・・・。酒見さん、ほんとうにナイスな変態。
桜庭一樹『道徳という名の少年』。
作者お得意の、ある一族の年代記。冒頭の一文は、
「町で一番の美女が父なし子を産み落としたのはこの国にはめずらしい雪の降る冬の夜のことで、雪など降ったのは数十年ぶりのことなのであまりの不吉さに教会の鐘が朝まで鳴りやまなかった。」。
鐘が鳴り響く白い夜に美女がひとりで子を産み落とすことの、なんといういかがわしくも退廃的な予感。その予感のとおり、めくるめく悪魔的なエピソードが繰り広げられるわけだが、なかでも「ジャングリン・パパの愛撫の手」の章が凄い! 「倒錯した愛」などと一言じゃ片づけられん。世代を超えて続く不道徳の系譜にくらくらするばかり、おもしろかった。
最後に、さくらももこの『やきそばうえだ』。悲しいくらいつまらなかった。つまらなかったなんて言いたくないが、これはちょっとどうかと思う内容だったのであえて言う。何でこんなの出したの!? 読みながら不快な気持ちになることしばしば。デビュー作『もものかんづめ』を含む初期作品のきらめきはいずこ。残念な気持ちになってしまった。