旅と日常のあいだ

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あれは運命だったのか? 穂村弘『もしもし、運命の人ですか。』

穂村弘の『もしもし、運命の人ですか。』を読む。

穂村さんは、私がいちばん好きな歌人だ。この本は、恋愛にまつわるエッセイとも作り事ともつかない文章を集めたもの。語られるエピソードの内容以上に、語られ方がとても魅力的だと思った。具体的概念的な事象を言葉に置きかえる際の、正確さ、わかりやすさ、面白さ。そして、美しさ。また歌集が読みたくなってきたなあ。

運命(の人)を感じる瞬間、というのはさまざまだろうが、私が「おっ!」と思う瞬間のひとつは、<ふたりで同時に同じことを言った(した・考えた)時>。常日頃から虎視眈々と狙っている「古い図書館の書架でふたり同時に同じ本を取ろうとしてしまう」というのがこのパターンだ(その熱い指先。きゃああああ!)。

図書館で同時に……は実現していないが、「これはもしかして運命かもしれない」と感じたことならある。

用意周到な私はとっさの緊急事態にも慌てないように偽名を考えてある。この話を知人にしたら、「僕も中学のときから偽名を作っている」とのこと。それだけなら驚かないけれど、彼の偽名の下の名前は私の偽名と同じ名前だったのだ。いやもう、偽名とか考えてるって時点でときめきポイントが上昇したけど、それが同じ名前ってすごくない? ときめきランプ大点灯。どうしてまた、その名前を? これを運命と言わずに何と言おう。

同じ偽名を持つ私たちは、それ以来、ふたりを結ぶその秘密の名で互いを呼び合い、いつしか深い深い恋に堕ちていった。

 

 

なんてことになったかどうかは、運命まかせのどうでもいい話。

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫)

もしもし、運命の人ですか。 (角川文庫)