旅と日常のあいだ

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『ヰタ・セクスアリス』 森鴎外

『ヰタ・セクスアリス』。妖しくも心惹かれるこのタイトルは、ラテン語で「性的生活」の意。1909年の発表当時には「卑猥である」として発禁処分になった、森鴎外による問題小説である。

「性欲的であるとは如何なるや?」という思索(及び体験)を軸に、淡々とした筆致で描かれる物語。哲学者である主人公は鴎外自身の影を多分に匂わせているのだが、直接的な性的描写はまったく見られない。この小説が問題視されるという当時の時代背景や文中に現れる思想風俗、それらの現代との比較、そういう点を面白いなと思いながら読んだ。

いやしかし、100年前はこれが禁書だったのか。

当時はきっと非常に新しい(挑戦的過ぎる)内容だったのだろうが、性に対する意識のありようが大きく変わった今、同じようなインパクトを与える小説というのはどんな方法で生まれ得るのだろうか?

現代にあふれかえる性的表現を見たら鴎外先生はひっくり返るかしら。中高生の書いたケータイ小説(性的表現多し)が文芸部門の年間売り上げ第一位を記録するご時世。良し悪しはともかく、なんちゅうか、隔世の感ありだ。

ヰタ・セクスアリス (新潮文庫)

ヰタ・セクスアリス (新潮文庫)